東京地方裁判所 昭和60年(ワ)11465号 判決 1986年6月06日
原告
藤川淑子
被告
江澤隆司
主文
一 被告は、原告に対し、一二三五万四一二〇円及びこれに対する昭和六〇年一〇月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一、二項と同旨
2 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五八年一月二六日午前七時三〇分ころ
(二) 場所 東京都犬田区西蒲田五丁目二六番一号先路上
(三) 加害車両 普通乗用自動車(川崎五五フ三二五五)
右運転者 被告
(四) 事故態様 原告は、同所路上を通勤のため歩行中、右後方から同方向に進行してきた被告運転の加害車両に右側から接触され左肘から転倒した。(右事故を、以下「本件事故」という。)
2 責任原因
被告は、加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。
3 原告の受傷、治療経過、後遺障害
(一) 原告は、本件事故により、左肘頭骨折、左肘関節・手関節・手指関節拘縮の傷害を負い、東邦大学医学部付属大森病院に次のとおり入通院(入院合計八六日、実通院日数五八日)して治療を受けた。
(1) 昭和五八年一月二六日から同年三月三〇日まで六四日間入院
(2) 翌三一日から同年一一月一八日まで通院
(3) 同月二一日から同年一二月一二日まで二二日間入院
(4) 翌一三日から昭和五九年六月二三日まで通院
(二) しかしながら、原告の傷害は完治せず、昭和五九年六月二三日、症状が固定し、左肘関節・左手関節・左手指関節(第一ないし第五指)の著しい運動制限の後遺障害が残り、右後遺障害は、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の査定により、自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第一〇級一〇号及び第一二級六号に該当し、併合して第九級に相当すると認定された。
4 損害
(一) 治療費 三八七万六七五八円
原告は、前記入通院の治療費として右金額を支出した。
(二) 入院雑費 六万八八〇〇円
原告は、前記八六日間の入院中、一日当たり八〇〇円の入院雑費を支出した。
(三) 交通費 四万五八五〇円
原告は、前記治療のための交通費として右金額を支出した。
(四) 逸失利益 一四四八万九三〇〇円
原告の昭和五八年の年収は三四二万五四九〇円であり、原告は、昭和一一年三月一八日生まれで、前記症状固定当時満四八歳であつたから、本件事故で受傷しなければ、満六七歳まで一九年間正常に稼働し、その間右収入を下らない金額の収入を得られたはずであるところ、前記後遺障害により労働能力を三五パーセント喪失したから、ライプニッツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は一四四八万九三〇〇円(一〇〇円未満切捨)となる。
342万5490×0.35×12.0853=1448万9300
(五) 慰藉料 五三七万六〇〇〇円
前記の原告の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺障害の内容、程度等を総合すると、原告の傷害に対する慰藉料としては一二〇万円、後遺障害に対する慰藉料としては四一七万六〇〇〇円が相当である。
(六) 過失相殺 一割
本件事故は、歩車道の区別のある蒲田駅近くの道路の車道上の端で発生したものであるが、当時歩道上には隙間なく自転車が置かれていて、歩行者が一人ようやく通行できる程度の余地しかなかつたため、同駅に向かう通行人の多くは車道上を通行しており、原告も、そうした通行人の一人として車道の左側を同駅に向かつて歩行中、右後方から進行してきた加害車両に接触されたものである。
被告は、前方を注視していれば、本件事故を回避することができたのに、前方注視義務を怠つた過失により本件事故を発生させたものであり、その過失は重大である。
これに対し、原告が車道を歩行していたことに過失があるとしても、その過失割合はせいぜい一割が相当である。
そこで、前記損害額二三八五万六七〇八円から過失相殺として一割を控除すると、残額は二一四七万一〇三七円となる。
(七) 損害のてん補 一〇一一万六九一七円
原告は、前記損害に対するてん補として、自賠責保険から後遺障害分五二二万円、労働者災害補償保険から治療費分三八七万六七五八円、後遺障害分一〇二万〇一五九円の各支払を受けたから、残損害額は一一三五万四一二〇円となる。
(八) 弁護士費用 一〇〇万円
原告は、被告から損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬として一〇〇万円を支払う旨約した。
5 よつて、原告は、被告に対し、本件事故による損害賠償として、一二三五万四一二〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一〇月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の被告の責任は争う。
3 同3の事実は不知ないし争う。
4 同4の事実中、損害のてん補の事実は認めるが、その余はすべて不知ないし争う。
5 同5の主張は争う。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。
理由
一 請求原因1(事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。
二 次に、責任について判断する。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第九号証の六によれば、被告が加害車両の保有者であることが認められるから、他に特段の事情の認められない本件においては、被告は加害車両を自己のため運行の用に供していた者であると認めるのが相当である。
したがつて、被告は、自賠法第三条の規定に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任があるものというべきである。
三 続いて、原告の受傷、治療経過、後遺障害について判断する。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第三号証、第七号証、第九号証の八、弁論の全趣旨により原本の存在と成立を認める甲第六号証によれば、原告は、本件事故により、右肘頭骨折、左肘関節・手関節・手指関節拘縮の傷害を負い、東邦大学医学部付属大森病院に昭和五八年一月二六日から同年三月三〇日まで六四日間及び同年一一月二一日から同年一二月一二日まで二二日間入院し(入院合計八六日)、そのほか昭和五九年六月二三日までの間に実日数五八日通院して治療を受けたこと、しかしながら、右傷害は完治せず、昭和五九年六月二三日症状が固定し、左肘関節・左手関節・左手指関節(第一ないし第五指)の運動制限の後遺障害が残り、右後遺障害は、自賠責保険の査定により、等級表第九級に相当すると認定されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
四 進んで、損害について判断する。
1 治療費 三八七万六七五八円
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第八号証の一ないし四によれば、原告が本件事故による治療費として右金額の損害を被つたことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。
2 入院雑費 六万八八〇〇円
原告が本件事故による傷害の治療のため八六日間入院したことは前示のとおりであり、右の事実によれば、原告が、右入院中、一日当たり八〇〇円を下らない金額の入院雑費を支出したことを推認することができ、右推認を左右するに足りる証拠はない。
3 交通費 四万五八五〇円
前掲甲第三号証によれば、原告は、前示の治療のための交通費として右金額を支出したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
4 逸失利益 一四四八万九三〇〇円
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一号証、第五号証、甲第九号証の七によれば、原告は、国鉄共済組合に事務員として勤務している者で、昭和五八年の同組合からの給与額は年額三四二万五四九〇円であつたこと、原告は、昭和一一年三月一八日生まれの女子で、前示の症状固定当時満四八歳であつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右認定の事実によれば、原告は、本件事故で受傷しなければ、満四八歳から満六七歳までの一九年間正常に稼働し、その間右収入を下らない金額の収入を得られたはずであるところ、前示の原告の後遺障害の内容、程度を総合すると、原告は、その後遺障害により労働能力を三五パーセント喪失したものと認めるのが相当であるから、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、前示の症状固定日を基準とした原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は一四四八万九三〇〇円(一〇〇円未満切捨)となる。
342万5490×0.35×12.0853=1448万9300
5 慰藉料 五三七万六〇〇〇円
前示の原告の傷害の部位、程度、入通院期間、後遺障害の内容、程度等を総合すると、原告の傷害に対する慰藉料としては一二〇万円、後遺障害に対する慰藉料としては四一七万六〇〇〇円をもつてそれぞれ相当と認める。
6 過失相殺 一割
本件事故の発生につき原告にも一割の過失があることは、原告の自認するところであるから、以上の損害合計二三八五万六七〇八円から過失相殺として一割を控除すると、残額は二一四七万一〇三七円(一円未満切捨)となる。
7 損害のてん補 一〇一一万六九一七円
原告が、前記損害に対するてん補として自賠責保険から後遺障害分五二二万円、労働者災害補償保険から治療費分三八七万六七五八円、後遺障害分一〇二万〇一五九円の各支払を受けたことは、当事者間に争いがないから、残損害額は一一三五万四一二〇円となる。
8 弁護士費用 一〇〇万円
弁論の全趣旨によれば、原告は、被告から損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の難易、審理経過、前示認容額、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、一〇〇万円をもつて相当と認める。
五 以上によれば、原告が被告に対し、本件事故による損害賠償として、一二三五万四一二〇円及びこれに対する本件事故発生の日ののちである昭和六〇年一〇月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は、すべて理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林和明)